足を速めた。
芽が追いかけてくる。
「薫、変わったね。前はそんなじゃなかった」
空気がひりつく感覚がして、芽の声色が頑なになった。振り返ると険しい顔をした芽がじっとこちらを見ている。
それを芽が言うんだ、と心の中で小さく笑う。
自分勝手に俺を振り回して、我儘で天真爛漫で。底抜けに明るくて誰からも好かれて、そんなふうに物分りよく諦めたように笑う奴じゃなかった。
「芽もでしょ」
「は? 何それ」
「そのままだよ」
次の瞬間、腹の底の呪がざわりとした。目を閉じて深く息を吐きその感覚を鎮める。
「俺は薫のこと、心配してるんだけど」
「そんなの一言も頼んでない」
「頼まれてなくてもするんだよ、だって俺達────」
呪が腹の中で台風のように渦を巻く。逃げるように足を速めた。芽が追いかけてくる気配はない。
「兄弟でしょ……ッ!」
背中でそんな声を聞いて、本殿の中へ駆け込んだ。