本殿に運べばいいんだっけ。
雪駄に履き替えて社頭を歩きながら辺りを見回す。
本殿と社務所も兼ねた授与所、神楽殿に手水舎くらいしかない小規模の社だ。けれど歴史は長いらしく、社史学の教科書に名前が載っていた。
日中の参拝者も多いようで、活気づいている。どことなく、禄輪が管轄するほだかの社の雰囲気と似ている気がした。
落としそうになった木箱を抱え直したその時、
「薫!」
背後から名前を呼ばれて振り返る。振り返ると同時に抱えていた木箱の半分が取り上げられた。
「やっぱり俺も手伝うよ」
芽はそう言って笑うと隣に並んだ。
二人の間に沈黙が流れる。それが気まずいのか芽は必死に何か話題を探している顔だった。
気まずいならほっとけばいいのに。
「そういや、二人きりで話すの久しぶりだね。学校じゃずっと宙一と嬉々がいたし」
芽は懐かしそうに目を細めた。
「最後にちゃんと話したの、四年前くらいだよね。九歳の夏────ごめん、何でもない」
不自然に言葉を止めて謝った芽。自分で言ったくせに、頬を叩かれたような傷付いた顔をした。
ため息をついて「……別に」と答えると芽は安心したように微笑んだ。