「……どこだよここ」
まだ幼さの残る面持ちの小柄な少年────神々廻薫は眉根を潜めて、辺りを見回した。
目の前にはさらさら流れる小川に朱色の反橋、鯉と亀が泳ぐ小池があって、手入れされた松の木があちこちに植わった庭園だった。
"大鳥居を過ぎて道なりに進み、もう一度鳥居をくぐったら学舎が見える。迷うことはないさ"
送り出された時にそう言われたが、学舎どころか二つ目の鳥居すらまだ見つけていない。
辺りを見回した薫は一つため息を吐くとその場に座り込んだ。
手頃な石ころを拾い上げて川に向かって放り投げる。音を立てて落ちたそれをぼんやり眺めた。
────このまま行かず隠れてたら、退学とかになったりしねぇかな。
忌々しげに己がみにつけるダサい制服を見下ろしてもう一度ため息をつく。
生まれてこの方"学校"というものに通ってこなかったし、そもそもそれ自体に興味がなかった。
生きていくために必要なことは全てオッサンが教えてくれたし、その生活にも不満はなかった。
今さら同年代がいる環境に入って学ぶことなんて何がある?
自分がこの学校へ編入するために色々と奔走してくれたらしいが、こっちからすればありがた迷惑だ。