芽の静止も聞かず、八面のラスボスがいかに強かったのかを語り出したので、やはり聞き流した。


「宙一は中等部から入学したんだよ」


興味はないので返事はせずそれも聞き流す。


「奥が玉富(たまとみ)嬉々(きき)。嬉々は俺と同じで初等部からいるんだ。困った時は嬉々か俺に聞いてね」


ちらりと奥に目を向けると、嬉々は我関せずといった態度で黙々と本を読んでいる。

嬉々はちらりとこちらを一瞥して、すぐに本へ視線を戻した。



「口も愛想も悪いけどいい子だよ」

「自分のことを棚に上げてよく言えたものだな」

「ふふ、じゃあ自分で自己紹介しなよ」



人のいい笑みを浮かべそう言った芽に、嬉々は苛立たしげに舌打ちをした。

ガシガシと頭を搔くとひとつ息を吐いて睨むようにこちらを見た。



「……玉富嬉々だ宜しくやるつもりは無い」

「仲良くしてね、だって」

「お前の頭はお花畑か除草剤ぶち撒いて欲しいなら先にそう言え」


隣の宙一があひゃひゃと妙な笑い方で笑い転げる。嬉々が本の角で宙一を殴った。どんがらがっしゃんと椅子ごと倒れて、それでもなお笑い続ける。




禄輪のオッサン、なんでこんな所に行けって言ったの。




心の底から「帰りたい」と願ったのは生まれて初めてだ。