「久しぶり、薫」
控えめに微笑んだ芽に、昔の面影が重なる。
「……久し、ぶり」
うん、と嬉しそうに頷いた芽は気恥しげに首の後ろを摩った。
「うわ、マジでどっちがどっちか分かんねぇ」
ふたりの間に首を突っ込みまじまじと顔を見比べるその少年の頭を芽が叩いた。
何なのこの失礼なやつ。
出会って数分しか経っていないけれど、直ぐに迷惑な奴のカテゴリーに分類した。
「おい阿呆共」
また別の声が聞こえた。今度は女の声だった。芽が降りてきた階段の上の方に座って本を読んでいる。
肩につくくらいのボサボサの黒髪で顔も長い前髪で隠れている。声を聞いていなければ女だと気付けなかっただろう。
「斎賀先生が早く教室へ帰ってこいとキレてる迎えに行ってこいと叱られた私まで巻き込むな」
変な喋り方だ、早口でまるで句読点がないみたいだ。
「ごめん嬉々。すぐ戻るよ」
振り返った芽が代表してそう答えた。
「行こっか、薫」
芽は右腕をこちらに差し出そうとして不自然に手を止めた。止めた手を直ぐに引っ込めて曖昧に笑う。
「こっちだよ」と歩き出した芽の後ろを数歩遅れて歩いた。