「……それに俺は芽じゃない」
「はぁ? 何、今日はそういう遊び?」
完全に自分の事を"芽"だと勘違いしているその少年は、呆れた顔で尻についた土埃をはらうと立ち上がる。
「早く教室行こうぜ、センセーそろそろ来るし」
「だから俺は……」
「はいはい、分かった分かった!」
有無を言わせず薫の背中を押して走り出したその少年に顔を顰めた。
その時、
「薫!」
昔よりか格段に低くなったけれど、聞き馴染みのある声が自分の名前を呼んだ。
足を止めれば背中を押していた少年が「おわっ、急に止まるなよ!」と非難の声をあげる。
薫は首をめぐらせて、奥にあった石階段の上から駆け下りてくる人物を見つけた。
「こんな所にいたんだね、薫。もしかして迷ってた? 俺鳥居の所でずっと待ってたんだけど……って、あれ? 何してんの宙一」
同じ紺色の制服を身に付けた、自分と瓜二つの顔がこちらへ駆け寄って来る。
「は!? え、芽が二人!?」
「何バカなこと言ってんの。昨日話したでしょ、双子の弟が編入してくるって」
「そうだっけ!? え、じゃあコッチって……」
指をさされて険しい顔でその手を払った。