目の前に広がる長閑な庭園風景を見つめ薫はもう一度深く息を吐くと、内ポケットに忍ばせておいた巾着を取り出した。
その中から金平糖を一粒つまむと口の中へ放り込む。
禄輪のオッサンがああ言うから来たけど、もう帰りたい。なんで俺こんな所にいるんだろ。
本当に今更、今更なのに。
もう何度目かも分からないほどのため息をこぼしたその時、
「あ、いた! こんな所で朝拝サボってたのかよ芽!」
親しげに話しかける声が聞こえたかと思うと、どん、と背中に衝撃が走り前につんのめった。
うわっ、と悲鳴をあげた芽。しかしそんな事はお構いなしに、その人物はケラケラと笑いながら薫の背にのしかかる。
「巫女頭にバレてっぞきっと! 芽、今日は居残り確定だな〜!」
おらおら、と首に手を回してプロレス技をかけられて、薫はその腕をひねりあげる。
いででで、と悲鳴が上がって、目尻を釣り上げて振り返った。
「やめろってば! なんなのお前……!」
「ちょ、芽本気出しすぎ! ただのおふざけだって!」
砂利の上に尻もちを着いた少年が涙目で薫を見上げる。
自分と同じ神修の中等部の学生を示す紺色の学生服をみにつけた男だった。丸い目を大きく見開いて自分を見上げる。
背丈や体格は同じぐらいだか顔が丸いせいか幼く見えた。