ほだかの社にいると、大人たちが執拗に自分に関わろうとしてきた。

今までにはないその感覚が何だかむず痒くて、禄輪の友人が社へ遊びに来る日にはよく逃げ隠れていた。



「薫、何で挨拶しに来なかったんだ。あいつら残念そうにしていたぞ」

「別に……」

「ほらこれ、お土産なんだと。お前が好きなんだって話をしたら、わざわざ買ってきてくれたんだ。お礼の手紙、書いときなさい」



差し出されたのは小瓶に入った色とりどりの金平糖だった。

禄輪にもあの夫妻にも、金平糖が好きだなんて言ったことは無い。当たり前のように差し出されたそれに、胸の中に温かいものが流れる。

その感覚に戸惑っていると、禄輪は小さく笑って薫の頭をぽんと叩いた。




薫が十二歳になった頃、禄輪はよく出かけるようになった。

詳しくは教えてくれなかったけれど、友人たちと話している会話を盗み聞きして、とても強い妖が現れたのだと聞いた。

忙しい日々が続いていた。あの友人夫妻ももう随分と会っていない。

しかし禄輪は、どんなに忙しくも必ず稽古の時間には現れて、三食のうちの一食は必ず同席して食べていた。



「おい薫、野菜を食べろ野菜を」

「……食べてるもん」

「ピーマン残すなよ、そんなんだから背が伸びないんだ。そのうち祝寿にも抜かされるぞ」

「……うるさい」

「うるさいとはなんだ、うるさいとは。こら、人参をよけるな」

「ああ、もう! 禄輪のおじさ────オッサンいちいちうるさい!」