「薫、今日からここで暮らすんだ。ほだかの社、絆架(ほだか)神社。私が管轄する社だよ」



その年の夏の終わり、薫は禄輪につれられてほだかの社へやってきた。



「今は体をゆっくり休めなさい」

「……はい、禄輪のおじさん」



薫は以前よりも口数が減って、ぼんやりすることが多かった。そんな姿に不安を覚えたが見守ることしか出来なかった。



「これからは私と、呪を抑え声で言祝ぎを作る稽古をしよう。お前にとってとても大切な稽古だよ」

「はい、禄輪のおじさん」



その翌年の春からは禄輪のもとで稽古を再開した。薫は相変わらず言葉数が少なく、社の神職とも関わりを持とうとしなかった。




「君が禄輪が初めてとったお弟子さんだね。初めまして、薫くん」

「私たち、禄輪くんのお友達なの。あ、この子は息子の祝寿(いこと)。たまに遊びに来るから、良かったら仲良くしてね」



禄輪と一緒に過ごしているうちに、彼の周りにはいつも沢山の人がいるのが分かった。

そして禄輪はお節介で、周りにいる人達もまたそうだった。



「やだもう薫くんガリッガリじゃない! ちょっと禄輪くんちゃんとご飯食べさせてる!?」

「神職なんて爺さんだらけで気がついたら精進料理みたいなメニューばっかりになるんだから、しっかり栄養あるもの食べさせなよ」

「ああもう、お前らうるさい。薫は食っても太らない体質なんだよ」