「お母さんが、布団から出れないのは……体が弱いからだって……でも違ったの、お母さんは僕のせいでッ……!」

「薫、違う。そうじゃない」

「僕がお母さんを殺したんだッ!」

「薫ッ!」



震える肩ををきつく抱きしめた。

この幼さで母親を失った悲しみを耐えられるはずがないのに、こんな時ですら自分の声を抑えて泣く薫に言葉が出てこなかった。




「もう嫌だ、こんな力。また誰かを傷つけるくらいなら、もう、僕を殺して……ッ」



まだ十にも満たない子供が"自分を殺して"と口にしてしまうほど、この環境は薫を苦しめていたんだろう。

隆永は本当にそれに気付けなかったんだろうか、本当にもう何もかもどうでも良くなってしまったんだろうか。



「……言祝ぎを口にしなさい」



小さなその頭を抱きしめて耳元で囁いた。



「薫、私と一緒に来なさい。そして力の使い方を覚えなさい。誰にも何も言わせないだけの力を身に付けなさい。お前の母親は、それを誰よりも望んでいる」



泣き疲れて眠った薫を抱き上げ立ち上がる。

畳の上に巾着が落ちた。半開きになっていた巾着の口から金平糖が転がる。

禄輪は黙ってそれを拾い上げると、静かに歩き出した。