薫の居場所も真言から聞いていたのでその足で離れへ向かった。
離れへ向かう道のりは相変わらず人気がなくどことなく寂しい。瓦屋根や木の柱が雨に濡れて重苦しい雰囲気の離れの玄関に立ち、禄輪は迷うことなく戸を引いた。
覚悟していた衝撃は来なかった。というのも、薫の母親、幸が急逝してからというもの薫の精神が安定せずに呪の調整が乱れていると言うのを聞いていたからだ。
残穢が渦巻くことも無く、家の中は耳鳴りがするほど静かでひっそりとしていて、どことなく冷たい空気が流れている。
禄輪は余計に険しい顔を浮かべて雪駄を脱ぎ捨てると廊下を早足で歩いた。
薫の部屋はもぬけの殻だった。一瞬気が急いだけれど、直ぐに幸の私室へ向かう。幸の部屋の前まで来るとその異常さに気がついた。
「結界……」
幸の部屋だけを囲うように強い結界が施されていた。
神職の誰かが施したのかと怒りを覚えたが、直ぐにそうでは無いと分かった。
結界と呼ぶには未完成で所々に綻びがある。一番下の階級の神職が張ったとしてももう少しマシなものが作れるだろう。
それに結界は外敵から守り、内部の浄化に特化しているはずなのに、その結界はそのふたつのどちらの効果も感じられない。感じられるのは抑止と抑制、中にあるものを外に出さず閉じ込める役割を付加されているようだった。
そんな事をする人物は、ここには一人しかいない。