「もうさ、全部どうでも良くなったんだ」

「隆永さ……」

「だって、そうでしょ。こんな言い方もなんだけど、幸が反対しなければ、ここにはいなかった子なんだから」



あまりにも冷めた横顔だった。

自分の知っている神々廻隆永はこんな顔をする男だっただろうか。



「俺は幸が二人とも産みたいって言ったから方法を模索した。殺さないでって言ったから、生かして強く育てる道を選んだ。薫が神主に選ばれて反対する声が上がっても、皆を必死に説き伏せた」



ふ、と隆永が鼻で笑う。





「でも、もう幸はいないんだよ。ならもうどうでもいい。俺、疲れたんだ」




アンタは父親でしょう、そう怒鳴ろうとしたはずなのに上手く言葉が出てこなかった。

幸がどれほどの存在だったかを知っている。そして大切な人を失った時の気持ちを知らない訳では無い。

深い悲しみの中にいる隆永を責める言葉なんて、口に出せるはずがなかった。



深く頭を下げて本殿を出た。隆永はまたぼんやりと祭壇を見上げていた。