神々廻の家系は代々龍神を御祭神として祀るわくたかむの社、別称を稚高産神社に仕える家系である。
社の規模は東日本では最大で、創建は奈良時代まで遡る。最古の社とされる"かむくらの社"に次いで古い社だ。
「古ければ古いほど良い」と考える者が多いこの界隈では創建の順に社の権威が強く、自動的にわくたかむの社に仕える神々廻家は高い地位に就くことができた。
御祭神の神託により選ばれる神主もここ二百年は神々廻の家系から外れたことはなく、血筋の濃さも他に追随を許さないほど圧倒的だった。
そんな家で育った隆永はもちろんそれなりの教育を施されてきたし、隆永を取り巻く人々も行く行くは宮司になる者として接してきた。
進学するまでは間違いなく良い所のお坊ちゃんに育っていたはずなのだが、初等部へ上がった頃に悪友と出会い、寮で過ごすうちに今の隆永が出来上がった次第だ。
「隆永さんのお家って神社なんですよね?」
「そうそう。古いもの大好きな古い人たちの巣窟だよ。鳥居をくぐったら法律は通用しないレベルだから、正直嫁に来るのはオススメできないけど」
「……プロポーズしたくせに」
「あははっ、そうだね」
からからと笑う隆永に、幸は眉根を寄せて唇を尖らせた。