社務所にいた神職たちに軽く挨拶をして禄輪は本殿を目指した。

本殿の入口には一足の雪駄が並べられている。その隣に自分のを並べて入口で一礼すると中へ足を踏み入れた。

探していた背中は祭壇の前にあった。何かをする訳でもなく、ぼんやりと祭壇の鏡を見つめている。



「隆永さん」



名前を呼べば僅かに肩が振るえて振り返る。

焦点の合わない目がぼんやりと自分を見上げた。



「祈祷中ですか? 出直しましょうか」

「祈祷……? ああ……」



返事もはっきりとせず、またぼんやりと祭壇を見上げた。



「ちゃんと休んでますか? 顔色悪いですよ」

「ああ……眠ってるよ。本当に、毎日ちゃんと……いつも、このまま一生目が覚めなければいいのにって思いながら」



つうと雫が頬を流れて落ちた。隆永はそれに気付いていない。



「……冗談でもそんな事口にしないでください。言祝ぎを口にしないと」


禄輪が眉を寄せてそういえば、ふっと瞳に力が戻って隆永は目を瞬かせる。



「ごめん今、俺なんて言った? て、あれ禄輪、お前いつ来たの」



本当に心から不思議そうに自分を見上げた隆永にかける言葉を失う。



「ああそうだ、幸の神葬祭はありがとうな。俺がやるって言ったのに、真言のやついつの間にか禄輪に頼んでたみたいで。まあ芽も薫もベッタリだったから正直助かったよ」