夜明け頃から細い雨が降り続いていたわくたかむの社が数日ぶりに開いた。しかし参拝客はなく、社頭はしんと静まり返っている。
鳥居の下に男が一人、神職を示す白衣に紫の袴を身に着けて傘を片手に立っている。
悲痛な面持ちで当たりを見渡せば、深い悲しみに包まれた空気を感じ取り目を伏せる。もう片方の手に持っていた手紙を一瞥すると、懐にしまって歩き出した。
男は歩みを進めて社務所を尋ねた。
ガラリと戸を開くと、中にいた数人がパッと顔を上げて深く一礼する。小さく手を上げて首をめぐらせば、奥から男が一人でてきた。
探していたその男がこちらに気が付き、慌てて駆け寄ってくる。
「禄輪!」
「すみません真言さん、忙しかったですか」
「問題ないさ。それより先日の神葬祭ありがとうな。助かった」
肩をそっと叩いた真言に禄輪は小さく首を振った。
ふと、真言の背中に隠れるように小さな子供がいるのに気付いた。禄輪はその場に膝を付いて視線を合わせると声をかけた。
「芽、こんにちは」
返事はなく、真言の腰にしがみついたまま微動だにしない。
禄輪は目尻を下げて笑った。
「芽さま、禄輪ですよ」
「芽〜、正月にお年玉あげたろ。まさかおじさんの事忘れたのか?」
おどけた口調でそう言った。本当は先日の神葬祭でも会っていたのだけれど、あえてそれには触れなかった。
この子達にそれを思い出させるのは今はあまりにも酷すぎる。