一瞬でも気を緩めれば吹き飛ばされそうなほど激しい暴風雨だ。息をすることもままならず、突き刺すように降る雨のせいでろくに目も開けられない。

肌に雨風が触れると同時に、体の中から蝕んでいくような痛みと嘔吐しそうな時の不快感に似た感覚を身体中に感じる。気を緩めれた瞬間に意識を失ってしまいそうだ。


これがただの雨風では無いことが分かった。


腕で顔を覆って一歩一歩と前へ踏み出す。

隆永が自分の名前を叫ぶようにして呼んだ。その声もやがて轟音に掻き消される。



やがて床にうずくまる小さな背中を見つけた。

恐怖で身を固くして可哀想な程に震えるその背中に手を伸ばす。細くて小さな腕を掴んで引き寄せると力の限り抱きしめた。




「お母、さん……?」



泣きそうな声が自分を呼ぶ。



「大丈夫、大丈夫よ。落ち着いて、何も怖くないよ」


双子が小さかった頃、寝付く前に子守唄を歌ってあげていた時の声で耳元にそう囁く。

何度か繰り返していうちに、薫の強ばっていた体から力が抜けて自分に寄りかかる。


不安と恐怖に染まった瞳が自分を見上げた。