「薫は……っ」
幸の問いかけに隆永は険しい顔で稽古場のの中を睨んだ。幸は息を飲んだ。
薫は、あの中にいるんだ。
「幸、離れに戻って真言を呼んできてッ! それでそのまま離れで待ってて、ここは危なすぎる!」
「でもそれじゃ薫が……っ」
「力のある神職数人がかりで抑え込むか、薫自身で止めるしかないんだ! でも薫はそれができない、ならそうするしかないんだ!」
声を荒らげた隆永に幸は眉を寄せて唇を一文字に結ぶ。
轟音の中で小さな声が聞こえてきた気がした。助けて、怖いよ、そう訴える声が聞こえてくる。
薫が泣いている。怖くて怖くて、助けを求めて泣いている。
きっと隆永さんに似た目には沢山の涙を溜めて、私に似た鼻を真っ赤にして、涙でぐちゃぐちゃになった顔で泣いている。
抱きしめていた芽を隆永の後ろに下ろした。風に煽られた芽が慌てて隆永の腰にしがみつく。
隆永が目を見開いてふりかえった。
「幸!? 何を────」
全て聞き終える前に、勢いよく駆け出した。