クソ、と心の中で悪態をつき吹き荒れる部屋の中を睨んだ。
恐らくこれは人為的に発生した雨雲だ。雨雲を生む祝詞は幾つかある、恐らく降雨を願う祈雨祝詞を奏上したんだろう。
ただ目の前のそれはかなり威力が強い、正しく効果が現れれば一時間ほどしとしとと雨が降って止むはずだ。
何故こんなことに、と顔を顰めハッと気がつく。
「これは、薫がやったのか!?」
芽はくしゃりと顔を歪めてひとつ頷いた。
自分のいない所で祝詞を奏上するなとあれほど言ったはずなのに、今更そんな事を思ってもどうにもならない。
「隆永さん!?」
戸口から自分の名前を呼ぶ声が聞こえて隆永は弾けるように振り返った。
激しい雨風に顔を顰めた幸が稽古場の扉の前に立っている。
「幸!? 駄目だ、離れに戻って!」
「薫が離れにいないの! 真言さんが、芽もいないって探しに来て……!」
芽を抱え直した隆永が壁に手を着いて歩み寄る。
「芽!? なんでこんな所に……!」
「お母さんっ」
隆永の腕の中から両手を差し出した芽を抱きしめる。頭からつま先までびしょ濡れで、同じ姿の隆永に戸惑う。