稽古場の扉を開けた瞬間、まるで中へ入ることを拒むかのような豪風が自分の体を押し出した。

咄嗟に扉を掴んで飛ばされそうになったところを間一髪で逃れる。


風と吹き付ける雨でもつれそうになる足を必死に踏ん張り中へ入る。



「何だこれ……!?」



そこに広がっていた景色は、轟く雷鳴を纏ったどす黒い雲だった。まるで竜巻の中にでもいるような光景だ、激しく吹きつける雨風は立っているのもやっとで、力を抜けばいつでも吹き飛ばされるほど強い。


顔を腕で覆って一歩、また一歩と前に進む。

すると風が吹き付ける轟音の中から、悲鳴に近い泣き声が聞こえた。



「芽!? そこにいるのか!?」



数秒遅れて「お父さんっ……!」と芽の声が聞こえた。聞こえた声の位置を頼りに前に進む。

やがて人の気配を感じて手を差し出せば、小さな手が縋るようにその手を握った。

その手を強く引き寄せて胸に抱く。



「何やってるんだ!」

「薫が、薫がぁっ……!」



泣きじゃくりながら必死に渦の中心を指さす芽に、隆永は息を飲んだ。



「中心に、薫がいるのか!?」



くしゃりと顔を歪めて、芽は何度も頷く。

下唇を噛み締めた隆永は渦の中心に背を向けて出入口へ向かって歩き出す。芽を抱きかかえた状態で上手くバランスが取れずにその場に膝を付いた。

驚いた芽が悲鳴をあげて己にしがみつく。