芽の声はやがて吹き付ける風の轟音でかき消された。もう何も届かない。
そばで稲妻が走って、薫は悲鳴をあげた。頭を抱えてその場に蹲る。
芽が奏上した時は通り雨が降った程度だった。なのに、どうして。詞は一言一句間違えていないはずなのに。
轟音の奥で芽の悲鳴と泣き声が聞こえる。助けを呼んでいる。
とめなきゃ、何とかしなきゃ。どうしたらいい、どうすればいい、何が出来る?
そう思うはずなのにぼたぼたと涙がこぼれるだけで声も出ない、手も足も動かない。轟く雷鳴に身を縮こめることしか出来ない。
自分にはどうすることも出来ない圧倒的な力が動いている。
怖い、怖い、怖い。
助けて、助けて。
誰か、助けて────。
「……っ、薫!」
頭を抱えていた腕を捕まれ力任せに引っ張られた。頭が理解する前に、泣きたくなるほど温かいぬくもりに全身を包み込まれる。
よく知っている優しい桜の花の匂いに、薫は目を見開いた。
「……お母、さん?」
細い指が頭を抱えるようにして撫でた。
「大丈夫、大丈夫よ。落ち着いて、何も怖くない」
木々の隙間から射し込む木漏れ日のような声が柔らかく鼓膜をふるわす。
まるで怖いものから隠すように、全身を力一杯に抱きしめる。