目の前が一瞬で曇った、比喩ではなく本当に曇った。
自分を中心にしてその周りを黒に近い灰色の雲が広がる。排水溝に水が流れていく時のようなゴゴゴッという音が絶え間なく鳴り響き、強い風が雲を押してまるで竜巻のように渦巻いた。刹那、カッと白い稲妻が走って咄嗟に耳を塞いだ。
色んな方向から吹き付ける風に踏ん張りが効かずたたらを踏んだ。激しすぎる風に息が出来ない。立っていられずその場に崩れるように膝を付いた。
小石のような雨粒が身体にあたる。一瞬で身体中を余すとこなく濡らした雨は止む気配はなく降り注ぐ。
突然のことに呆然とその光景を見上げた。
目の前で、何が起きてるの……?
「────る! ゆる、薫!!」
轟音に交じって芽の声が聞こえた。ハッと顔を上げて当たりを見渡す。
「薫! やめて! これ、とめてッ!」
叫び声に近いその声に体が強ばった。
「薫……! 痛いよぉッ!」
痛い、助けて、そんな悲痛な叫び声が届き、手足がガタガタと震え出した。
芽、と名前を呼ぼうとしたけれど喉の奥がぎゅっと閉まって微かな声しか出なかった。