「上手上手、その調子!」


芽が嬉しそうにそう声を上げた。



「……畏み畏み()み奉らくは今日(こんにち)の初めより日魃(ひでり)打ち続きて、蒔きし畑も植えし田も朝毎に(しぼ)み夕毎に枯れ(そこ)なえるを百姓等(おおみたからら)の見悲しみ思い(まど)わい、天津水(あまつみず)()()み奉る(さま)(あわれ)みて────」



身体の中に溜まっていた重苦しい力が、腹の底で音に絡まる。それが喉を通って声になった瞬間、まるで弾けるように正の力に変わって空気中に広がり響いた。

今までにない感覚に薫は戸惑った。自分の声が言祝ぎを奏でている。あの忌み嫌われていた自分の声が。



「大前に(たてまつ)大神酒(おおみき)大御饌(おおみけ)種々(くさぐさ)の物を平けく安けく(きこ)()して今も天津水を(くだ)して良水(よきみづ)甘水(うましみづ)と受けてしめ給いて……っ」



喉の奥に沢山走った後のような乾いたひりつく痛みが走った。舌の付け根に鉄の味を感じる。

息を吸う度に痛みが走り、思わず手を当てて顔を顰めた。



「後ちょっとだよ! 頑張れ薫!」



己を応援する声が聞こえる。

止まりかけた口を動かした。



五穀(いつくさのたまつもの)を始め……草の片葉(かたは)に、至るまで、潤い(あまね)く繁り立ち栄えて……っ、賑わう御代と成し(さきわ)え給い……」



声が掠れた。そのせいで上手く高い声が響かない。尖った低くて汚い声だ。体の中の重い力の勢いが腹の底で増している。

お腹に両手を押し当てた。手のひらに熱を感じる。