「でも部屋の中で雨降ったら、稽古場びしょびしょになっちゃわない……? もっと怒られない?」
「あ」
そこまでは考えが及んでいなかったらしい。
一瞬やらかした、という顔をした芽だったがすぐに被りを振る。
「でもさでもさ、本殿とか神楽殿をびしょびしょにするよりかはよくない?」
「……そう、かも」
「でしょ! ならやっぱり稽古場で正解! ほらほら、こんな話してたら時間無くなっちゃうから!」
芽に背中を押されて稽古場の真ん中まで歩みを進めた。
昼間に比べて木の床はとてもひんやりしていて、耳鳴りがするほど静かだ。
「詞は全部覚えてるよね?」
「ん……」
「なら大丈夫だよ! 意味だってひと通り説明したし、薫なら出来る!」
頑張って、と顔の前で拳を握った芽にひとつ頷く。
薫は静かに目を閉じて胸の前で鋭い柏手を二度打つ。そしてす、と深く長く息を吸った。
「常も仕え奉る高神の御殿に掛け巻くも畏き雨水分神、国水分神、高意賀美、闇意賀美の神霊を招ぎ奉りませ奉りて────」
高く伸びやかで柔らかい声、隆永に習ったそれを意識して声で言祝ぎを表すことに集中する。