「────幸〜? いつまで拗ねてんの?」

「だって、だって……」


同日同刻、離れの私室で膝を抱えて不貞腐れていた幸の頬をつついたのは隆永だ。

膨らんでいた頬からふしゅうと空気が抜けて、幸は唇を尖らせる。



「だって……あんな急に……」

「ふたりとももう九歳だよ。そろそろ反抗期だし、自然なことだって」

「でも芽が出ていって薫までお母さんから離れていくなんて……!」

「たかが自分の部屋で寝るって言っただけじゃん」

たかが(・・・)!? 信じられないっ! 隆永さんには私の気持ちなんてこれぽっちも分からないんでしょうね!」


余計にむくれた幸が隆永に背中を向けて膝に顔を埋める。

ぷりぷりと怒りを表すその背中に小さく笑った隆永は後ろからそっと抱きしめた。

頑なになっていた幸の体から力が抜ける。それでも顔だけはやはりむくれたままで隆永を睨んだ。



「幸が心配する気持ちは分かるよ。俺だってあの子らの父親なんだから。でも、あの子たちもずっとお母さんの傍にいることは出来ない。成長する時なんだよ、きっと」

「隆永さん……」


幸は眉を下げて泣きそうな顔をしながら隆永を見上げる。

そんな頬を優しく撫でた。



「今がどんなに辛くても、ぐっと耐え忍ぶことできっと新たな芽生えがある。いい風が吹き始める。幸運が訪れる。芽にも薫にも、もちろん幸にも」


たくさんの芽生えがありますように、芽。良い風が吹きますように、薫。

双子につけた名前の由来だ。