「僕は……」


薫が口を開く。うんうん、と目を輝かせた芽が身を乗り出した。


「僕は、わかんないよ」

「わかんないの?」

「……うん」


つまんなーい、と唇をとがらせた芽に申し訳なさで身を縮めた。


将来何になりたいのかなんて、一度も考えたことがなかった。

芽のように得意なことがある訳でもない。やりたいことがある訳でもない。隆永のように神職になるのかと言われても正直分からない。いずれ神主になることが決まっているのだって、全然実感がない。


ただ痛くて苦しいこの毎日が一日でも早く終わればいい、そう思っていた。

それ以上の未来なんて、想像できなかった。


手のひらに残った金平糖を見下ろす。



「あ……」

「何なに! やっぱりある!?」

「大人になったら……金平糖、毎日食べたい」


目を点にした芽はしばらくして勢いよくブハッと吹き出した。声を上げて笑い転げる。



「金平糖くらいいつでも買えるよー! 大人って働いたらオキュウリョウって言うお金をたくさん貰ってるんだよ! 車も家も買えちゃうんだよ!」

「お家買えるの?」

「そうだよ! 金平糖なんて一生分買えちゃうんだから!」