「別に僕は神主なんてキョーミないのになぁ。なんで皆が騒ぐんだろうね? 薫が選ばれたなら、薫でいいじゃんね」
「僕だって別に……芽は何になりたいの?」
「僕は囃子方になるんだ〜」
「ハヤシ……? 木になりたいの?」
そう聞き返した薫に芽はぷくくと口に手を当てて笑う。
そんな態度に薫は少し唇を尖らせる。教えてよ、と拗ねた口調で言えば芽は「ごめんごめん」と笑うのを少しやめた。
「能楽って知ってる? 演劇みたいなものなんだけど、そこで横笛とか太鼓とかを演奏する人だよ」
「芽、横笛ふけるの?」
「学校の雅楽よ授業で習うんだよ。僕クラスで一番上手いんだ!」
すごいね、と目を丸くすると芽は得意げに鼻をならした。
「薫は何になりたいの?」
「僕……? でも僕、神主にならなくちゃいけないんじゃ」
「お母さんは、僕らは何にでもなれるんだって言ってたよ。僕らが好きなように決めたらいいんだって」
あ、と薫は声を漏らした。いつかの微睡む夢と現の合間で、自分の頭を撫でながら幸の声を聞いた気がする。
貴方は何にでもなれるの。何にも縛られず、自由に、なりたい自分になってね。