数日前から始まった芽との秘密の特訓は、薫が思っていたものとは少し違っていた。
「この時ここの"懸けまくも畏き"は、この大神にかかってるから……」
鎮守の森の柏の木下で持ち寄った懐中電灯を照らし、芽が神修で使っている教科書を二人して覗き込む。
毎晩その繰り返しだった。
一度芽に「いつになったら練習するの?」と尋ねたが、「祝詞の意味を全部理解するまでは出来ないよ」と言われた。
隆永に"祓詞"を習った時も確かに祝詞の意味を習ってから声を出して練習し始めたが、それでも一時間程度勉強してから直ぐに練習を始めた。実践練習の時間の方が圧倒的に長い。
『祓詞はすべての祝詞の基礎になるし、詞の意味も簡単だからだよ。難しい詞の入った長い祝詞を奏上するならちゃんと意味を習わないとボウハツしちゃうんだ』
『ボウハツ?』
『間違った効果が現れるってことだよ』
いまいち納得はいっていないが、とにかく実践練習は先になるらしい。
勉強は好きじゃないしそれが退屈なら尚更で、嬉々として教師役になる芽には悪いと思いつつ薫は欠伸を噛み殺した。