人の子は寝静まり、妖たちの時間が始まる丑三つ時。薫はそっと自室を抜け出し鎮守の森へ走った。


一度立ち止まって振り返る。幸の部屋の明かりはとっくに消えていた。

数日前のやり取りを思い出し、堪らず溜息をこぼした。



『一人で寝るって……どうしたの薫? お母さんと寝るのが嫌になった?』

寂しそうな顔でそう問いかけた幸。

『芽だってそうしてるもん』

『芽は芽、薫は薫よ。それに朝起きた時、寂しいかもしれないよ?』

『大丈夫だもん。今日から僕、一人で寝るから……!』



夜中に抜け出す時に、幸と一緒の部屋では何かと都合が悪かった。

けれどそんなことを正直に言えるわけもなくただ『一人で寝たい』とだけ言えば、幸は驚く程にショックを受けていた。



薫はかぶりをふって前を向くと、弾みをつけて走り出す。

鳥居とは正反対の位置にある鎮守の森が待ち合わせ場所だ。


薫が来る頃にはもう芽は着いていて、太い木の枝の付け根に座って金平糖を頬張っていた。



「あっ、遅いよ薫〜」

「ごめん……!」


よっ、と木から飛び降りた芽が「行こっか」と手を差し出す。

薫がその手を取れば、二人は揃って森の中へ足を踏み入れた。