芽は鳥居と真反対の位置の鎮守の森に入った。
肩で息をする薫は、足を止めた芽の背中を不安げに見つめる。
「芽、」
「どうして薫ばっかり」
「え……?」
ばくんと心臓が嫌な音を立てた。
薫は戸惑いながら芽の背中に手を伸ばす。
「どうして薫ばっかり。どうして薫なの? どうして薫が神主なの?」
「芽、僕は……」
勢いよく振り向いた芽は薫に飛びついた。その体を強く抱き締めて、勢いのまま地面に倒れ込む。
「どうして薫ばっかり、苦しくて悲しい思いをしなきゃいけないの! なんで僕ら双子なのに、みんな薫に同じように接してくれないの!」
「芽……」
「真言が僕にね"芽さまがたくさん頑張れば、薫さまをいつかお助けできますよ"って言ったの。僕、神修で沢山勉強してる、たくさん頑張ってる。なのに薫はずっと苦しんでる。なら、いつ薫を助けるの? 薫が可哀想だよ……っ」
耳元で芽が鼻をすする音が聞こえる。首筋にポタポタと暑い雫が落ちた。
「そんな事言わないでよ、芽……」
可哀想だ、という言葉が幼いながらに胸に刺さった。芽は自分のことを憂いてくれているはずなのに、なぜだかそれがとても悲しかった。