「────芽? 何してるの? 出てきて怒られないの?」
何日か経ったある日の夕方、自室で隆永から与えられた課題に取り組んでいると、濡れ縁の方から砂利をふむ足音が聞こえた。
不思議に思って少しだけ襖を開けて外の様子を見た。
こちらに背を向けて立っている芽がいた。
芽の夏休みも終盤に差し掛かり、まだ薫の外出禁止令は解けていない。芽も離れへ尋ねることを禁止されて、開門祭が終わってから一度も顔を合わせていなかった。
「あ、薫」
名前を呼ばれて芽が振り返る。いつもと変わらない顔だった。
「猫が」
「猫……?」
薫は首を傾げて外に出る。裸足で庭へおりて、芽の視線の先を辿り息を飲んだ。
子猫だ。黒い子猫が横たわっている。目を見開き、口から泡を吹いて砂利の上に倒れていた。
「この子……死んでるの……?」
「うん、死んじゃったみたい。薫に見せようと思って連れてきたんだけど、ここで死んじゃった」
「もしかして……僕の呪に、あてられたの?」
芽は何も言わなかった。ただ「大丈夫だよ」と薫の手を握る。
薫は呆然とその子猫の亡骸を見つめる。
「いいから行こう、薫」
手を引かれて転がるように走り出した。