「おい、隆永。ちょっと手伝え」


店へ戻るなり厨房で作業をしていた幸の父親、清志が気難しそうな顔で隆永を呼びつけた。


「はい、お義父さん! 今行きます」


隆永は気前よくそう答えて小走りで厨房へ向かう。

その途中で幸がなんとも言えない表情でこちらを睨んでいたので、ウィンクを返した。


「まだお義父さんじゃねぇ。親方って呼べ」

「そうですよね、これからでした。あはは」


何度も顔を出しているうちに、居座るなら手伝えと清志に言われてから店のあれこれを手伝うようになった。

初めは店番や接客がメインだったが、いつの間にか厨房の作業もいくつか任されるようになった。


表情の乏しい清志のことが初めのうちはよく分からなかったが、何日か共に過ごすうちにこうして厨房にも入れて貰えるようになったし、会う度に「娘さんを僕にください」と頼んでいるが「幸がいいって言ったらな」と言う返事に、嫌われてないことは確認済みだ。



「ちょっと! "まだ"も"これから"もないから!」



二人の会話に耳を立てていた幸が、売り場から顔をのぞかせて目くじらを立てる。