「────なんでお祭りの日にまで勉強しなきゃいけないの!」


稽古場のど真ん中で大の字になって寝転ぶ芽の傍で「そうだね」と薫は息を吐いた。

開門祭が始まった翌日、昨日は神事が朝からあって夜の少しの間しか遊び回れなかった芽は、今日こそ朝から晩まで社頭で遊び回ろうと意気込んでいた。

そして急いで朝食を掻き込んでいたその時、幸に声をかけられた。


『芽、学校の宿題は進んでるの?』

『や、やってるよ』

『去年の最終日に夜通し付き合った祝詞奏上の宿題、今年はまだお母さん一度も聞いてないよ?』


口篭る芽に幸は呆れた声で言った。


『お昼までは薫が稽古場で練習してるから、芽もそこで宿題しなさい』


開門祭で早朝から忙しい隆永は薫に自主練習の内容だけ託して仕事に戻っている。最初の五分だけ真面目に取り組んで後はだらだらと過ごしていた所へ芽がやって来て今に至る。


洋服のポケットに入れていた巾着を取り出した芽は中の金平糖を摘んで口へ放り投げた。


「薫も食べる?」

「……ん、食べる」


二人の間に巾着を置いた芽。薫は手を伸ばした。



「ねー、お父さんも居ないんだったら、別にちゃんと練習しなくてもバレないよね?」

「ダメだよ、午一ツ(11時半)に見に来るって言ってたし……」

「ちぇー、やっぱりダメか」



芽は転がってうつ伏せになり金平糖を頬張る。