まるで初めから誰もいなかったかのように、本殿の中はしんと静まり返っている。


「え……あれ?」


立ち上がって当たりを見回した薫、その時バン!と大きな音がして本殿の扉が開いた。

肩で息をする隆永が中に飛び込んできた。



「……薫!? なんだ、お前だったのか……」



膝に手をついて息を吐く隆永に、怒られるのではないかと薫は身を固くする。



「もう直ぐ祈祷が始まるから、出ていきなさい」

「は、はい……あ、でも探さないと……」

「芽もいるのか? 遊び場じゃないんだぞ」

「あ、あの……芽じゃなくて……ごめん、なさい」



縮こまる薫を不思議に思った隆永はめの高さを合わせて肩を掴んだ。



「芽はどうしたの? 薫一人? もう寝る時間だったでしょ?」



隆永の語尾が柔らかくなった。

稽古の時でも仕事の時の隆永でもない、怒るとちょっと怖い父親の隆永だった。



「社頭の、お祭りにきたの。芽が、お小遣い取りに行って、妖が僕を……怖がって……」



薫の声が震えたのに気がついて、その小さな背中を抱きしめた。

こうなる事が分かっていたし、実際に薫の見えないところで皆が薫に怯えているのは知っている。

だから小さいうちは他人との接触をなるべく避けさせた。力も安定していなかったし、それが薫自身を守るためだったからだ。