軽やかに祭壇から飛び降りた少年はりんごの芯をひょいと放り投げると大股で薫に歩み寄る。
ぐんと顔を寄せた少年に驚き、薫は体を反らせた。
「本当に似ておるな、そっくりじゃ。顔だけじゃ区別がつかんの」
「な、何……?」
「ふん」
質問には答えず鼻を鳴らした少年は、薫の前に座って胡座をかくと膝の上で頬杖をついた。
水晶玉の様な透き通った瞳がじっと己を見上げていて居心地が悪い。
「見下ろされるのは不快じゃ。座れ薫」
「は、はい……」
すとんと椅子の上に腰を下ろす。
自分よりも幼い出で立ちのはずなのに、喋り方は祖父母に似ている。使う言葉も難しくて、見た目にそぐわない話し方だった。
「あの、君は……?」
「自分が奉仕している祭神の名も知らんのか?」
「さい、じん……?」
「まあいい。とりあえず要件だけ伝えるぞ。神職に見つかると面倒だ」
はあ、と首を傾げた薫の鼻先を指さした。
「薫、お前は次の神主なれ」
直ぐにその言葉を理解することが出来ず、薫は目を瞬かせた。
聞いてるのか?と少年は眉根を寄せて薫の前で指を鳴らす。
「あ、えっと……え、神主……?」
「まあ代を譲る時期は隆永と決めても良い。これからお前は何かと忙しくなるからな。三十三の歳までは無理じゃろう、大目に見てやるがなるべく早く神主になるのだぞ」