少年は渡御行列で薫達が身につけた水干と似たような黒い衣装を身につけていた。

祭壇の一番上の段にあぐらをかいて座り、三方の上にあったはずの神饌の林檎をそのまま頬張る。


なかなか美味いな、と舌鼓を打つと、呆然と己を見上げる薫に視線をやった。




「辛気臭い顔をしよって。鬱陶しくて仕方ないわ」



バリバリ、林檎を咀嚼する音と少年の声がよく響く。

固まっていた薫は我に返って青ざめて立ち上がった。



「だ、ダメだよ降りて……っ! 祭壇は触っちゃだめなの!」



芽が小学校へ上がる前、本殿に忍び込んだ芽が祭壇に触ったのを神職に見つかって、隆永からかなりきつく説教されたことがあった。

あのいつも笑っている芽が大号泣しながら離れに来て、その後一時間は泣き続けた。それほど厳しく叱られたのだ。


そんな光景を間近で見ていたので、絶対に本殿にあるものは触らないでおこうと幼い心に誓ったのだ。

ましてや御祭神が降臨するとされている祭壇によじ登るなんて、神職に見つかれば生きて帰れないかもしれない、なんて薫は震え上がる。



「は、早く降りて……! お父さんに見つかったら怒られちゃうよっ!」

「我を叱れる神主がいるなら、それは会ってみたいものだな」



はっはっは、と少年は軽快に笑った。