「……綾に畏き天照國照統大神の御前に拝み奉り諸諸の命神等世世の御祖命教主命惠蒙れる人等の御前をも尊び奉りて恐こみ恐こみも白さく」
太く伸びやかで明朗な声が静かに響く。
隆永が読上げるそれは、荒ぶる魂を鎮めるための祝詞と呼ばれる言葉だ。
「統大神の高く尊き霊威を蒙り奉りて任け給ひ寄さし給ひし大命の違ふ事無く怠る事無く仕へ奉ると諸諸の荒び疎ぶる禍津日の禍事に穢るる事無く横さの道に迷ひ入る事無く言退け行ひ和して玉鉾の直指す道を踏み違へじと真木柱太敷く立てて仕へ奉りし状を忝み奉りつつ復命竟へ奉らくを見備はし給ひ聞こし召し給ひて過ち犯しけむ禍事を見直し聞き直して教へ給ひ諭し給ひ霊の真澄の鏡弥照りに照り輝かしめ給ひて愈愈高き大命を寄さし給ひ身は健やかに家内睦び栄へしめ給ひ永遠に天下四方の國民を安けく在らしめ給へと恐こみ恐こみも白す」
最後の一言を奏上したその瞬間、猫又尾っぽがぴくりと動いた。
そして隆永を振り返った猫又は不思議そうに首を傾げると、やがてまた老婆の頭に体を擦り付けミャオと鳴く。
これで大丈夫かな、と咳払いをすると店の中へ戻った。
無賃で祝詞奏上したなんて聞いたらまたあの煩い禰宜頭に説教をされそうだが、幸のためだから致し方ないだろう。