転がるように駆け込んだのは祭りに合わせて解放されていた本殿だった。

ちょうど次の祈祷の合間らしく、祭壇の前には三方に神饌が用意され、参拝者用の長椅子がならんである。

入り込む風にロウソクの火がゆらゆらと揺れていた。



一番そばにあった長椅子に座った。

座った瞬間鼻の奥がツンとして太ももの上にぽたぽたと暑い雫が落ちる。握り締めすぎて白くなった手が痛かった。

自分の力がどういうものなのか分かっている。そして周りがそれを恐れていることも知っている。

泣いたって仕方がない、どうにもならない。

そんなことは分かりきっているはずなのに、どうしようもなく胸が痛かった。



手の甲で何度も目尻を拭う。早く戻らないと芽が自分のことを探しているかもしれない。

それなのに涙は引っ込まず、なかなか立ち上がれなかった。




「────呆れた、また泣いておるのか」




まるで鈴の音色のように高く軽やかで、それでいて幼い声が聞こえた。

次の瞬間、本殿の中の空気が変わった。張り詰めた糸のような緊張感が走る。


ハッと顔を上げた薫は、自分よりも二三年下に見える少年と目が合った。