やさしく、まるく、あったかい声で、幸との約束を思い出して胸の中で繰り返す。
「ぼ、僕……芽じゃ、ないよ」
「はァ? 今度は何の遊びだ?」
「芽は僕の……お兄ちゃん、だから」
しばらくの沈黙、次の瞬間、その妖はまるで力が抜けたかのようにぺたんとその場に尻もちを着いてギョロりとした目を見開いて薫を指さした。
「じゃ、じゃあ……お前は、呪の」
"呪の"
その言葉を聞いた瞬間、薫の瞳に影が差す。
結局はどこに行ってもどんな時でも、自分に対する認識はそうなんだ。
「うわぁッ!」
悲鳴をあげた妖が必死に後ずさる。
周りにいた人々や妖たちが怪訝な目で様子を伺っている。
「なんだい騒々しいね。どうしたんだい?」
「呪の方と話しちまった! 俺死んじまう……ッ!」
「呪の方?」
「それって芽さまの弟の……」
「あの呪われた弟の……」
心臓が爆発しそうなほどバクバクと煩い。二の腕を強く握りしめた。
なんだなんだ、と薫を中心に人だかりができる。
沢山の目が自分を睨んでいるように思えて、堪らず人垣を押しのけて駆け出した。