妖たちも動き出す時間になって、社頭はいつも以上に賑わっていた。
暗い夜空に沢山の提灯が浮かんでいる。本殿前の参道にはずらりと屋台が並び、沢山の人や妖で溢れている。
夏祭りも秋の奉納祭も、いつも離から賑やかな祭りの音に耳を澄ませて聞くだけだった。
初めて訪れた夜の社頭に、薫は眠気も吹っ飛んで目を丸くした。
「め、め、芽……!」
興奮気味に繋いだ手を引っ張る薫に、芽は楽しそうに笑った。
「うんうん、夜の社ってびっくりするよね! 神修の週末も、いつもこんな感じなんだよ。薫とずっと一緒に来たかったんだ」
「すごいねっ、お祭ってこんなにたくさん、たくさん……!」
「ふふ、落ち着いて薫。それに、お祭りは見てるだけじゃなくて遊ばないと!」
行こう、と走り出した芽は数歩走ったかと思うと「あっ」と声を上げて急に立ち止まった。
芽の背中に鼻をぶつけた薫は、擦りながら「どうしたの」と首を傾げる。
「お金忘れた」
「……僕おこづかいもらってない」
「さっきね、真言が"二人でどうぞ"ってこっそりくれたんだ」
「真言が……?」
「そ! 母屋に置いたから取ってくる!」
ここで待ってて〜、とあっという間に走っていった芽の背中が見えなくなって、薫は恐る恐る首をめぐらせた。