ほらほら、と無理やり立たされた薫は眠気まなこで手を引かれる。


「僕ねむい……」

「何言ってるの薫! お祭りだよ! お、ま、つ、り!」



うーん、唸った薫はまだ頭がはっきりしないらしい。



「芽、少し待って。薫、お母さんの方向いて」



今にも部屋から飛び出しそうな芽を呼び止めて、薫の両肩に手を置いた。

薫は目を擦りながら幸を見上げる。



「薫、人と話す時の約束は?」

「……やさしく、まるく、あったかい声で」

「ちゃんと忘れずにね」


分かっているのかいないのか、船を漕ぐように頷いた薫に幸は息を吐く。

「いってきます!」と芽は薫の手を引いて部屋を飛び出した。