「────ねぇお母さん早く早くっ」
「こら芽動かないの、余計に時間かかるよ」
八月の二週目に差し掛かり開門祭の初日、早朝から母屋に来ていた幸は渡御行列の衣装の着付けを手伝っていた。
「時間なくなっちゃうよ〜」
「まだ開門の儀まで一時間あるから……薫、そんなに引っ付かれたらお母さん動けない」
己の背中にへばりつく薫に、幸は苦笑いで頭を撫でた。
母屋への立ち入りを禁じられていた薫は年始の挨拶に赴くための一度きりしか、母屋へ来ることはない。
尋ねる度に奇異の目に晒されて幼いながらにその視線から悪意を感じ取り、自然と苦手意識が芽生えたらしい。
「ほら、アレが芽さまの弟の……」
「アレが呪の……」
廊下を通る度に聞こえてくる神職たちのひそめた話し声に体を縮める。
その時、
「アレとはなんです。神職ともあろう者が情けない」
そんな声と共に障子が開き、真言が顔をのぞかせた。
「幸さま、薫さまのお着替えは私が」
「真言さん助かる! ほら薫」
幸に促されて恐る恐る歩み寄る。
真言は目尻を下げて薫の背に触れた。



