目が覚めると自分にあてがわれた部屋で眠っていた薫は、ぼんやりと天井を眺めてからゆっくりと体を起こした。
障子の隙間から見えた空には月が出ていて、冬の名残を感じる冷たい風がそよそよと吹いていた。
「お母さん……?」
いつも眠る時は幸の部屋に布団を敷いて隣で眠っていた。自分の部屋で眠る時は、幸の具合が悪い時だけだ。
離れの中は静まり返っている。
眠る前のことを思い出した。
『お父さんもお母さんも、芽も、みんなだいきらいッ!』
幸の胸の中で確かにそう叫んだ。
その瞬間、ハッと口を抑えた。
覚えているいちばん古い記憶にすらある、嫌という程隆永から聞かされて続けた言葉が脳裏を過った。
『腹が立った時や悲しい時、その気持ちのままに言葉を発してはいけない。もし薫がそうしてしまえば、周りの人を傷つける事になるからだよ』
「僕……」
お稽古が痛くて怖くて嫌で、お母さんのお膝で話してる芽が羨ましくて、学校に行ける芽に腹が立って、それで────。
お父さんはちょっと怖いけど嫌いだなんて思ってない、お母さんも大好きだ。芽も、いつも優しくしてくれるのが凄く嬉しい。なのに、僕は。



