「────でねでね、お母さん。真言がね、もうこんな事もできるようになったんですかってびっくりしたんだよね」
「そうなの、芽はすごいねぇ」
「でしょ、すごいでしょ?」
ある日の昼下がり、母屋から離れへ遊びに来ていた芽は幸の膝の上で楽しげに今朝あった事を話していた。
幸が布団から起き上がれない体になってしまい、芽は母親に会うためにこうして毎日離れへ訪れている。
母屋で隆永の祖父母に育てられている芽は、何不自由なくすくすくと成長している。明るく朗らかで、他人の気持ちに聡い子に育った。持ち前の言祝ぎの多さや飲み込みの速さから、真言にいろいろと教わっているらしい。
唯一まだ、なぜ離れて暮らさなければならないのかと帰り際に離れ難くて泣いて訴える芽には訳を話せていない。
「明日からね、"やまとまい"もおしえてもらうんだよ」
「今度お母さんにもみせてね」
「いいよ!」
その時廊下側の障子が開いて、薫が顔をのぞかせた。
幸と芽が振り返る。
「薫、おかえり。あちゃー、また泣いてるの」
いつもならそのまま幸の腕の中へ走ってくる薫だが、芽の姿を見つけてぐっとそれを堪える。
「薫、どうしたの? 泣いてるの? どっかいたい?」
幸の膝から降りた芽が薫の元へ駆け寄った。



