「────あれ隆ちゃん! あんたまた来てたのかい。本当に懲りないね」
「山田のばあちゃん、いらっしゃい。懲りないんじゃなくて、一途なだけだよ。あ、今日の餡子は格段に美味いよ。俺が煮たからね」
「あはは、なら今日はおはぎを貰おうかねぇ」
寂れていたはずの和菓子屋「菓瑞」には、ここ最近朝からたくさんの人が訪れるようになった。
老若男女問わず訪れる客たちの目当てはもちろん和菓子、ではなく最近ここで働くようになった和装の男が目当てだった。
「ちょっと隆永さん!? 勝手に販売しないで下さい!」
店の奥から出てきた彼女は、いつの間にかレジを使いこなす隆永に目を見開きながら詰め寄った。
「あら、さっちゃん。おはよう〜」
「山田のおばあちゃん、いらっしゃい! いつも贔屓にしてくれてありがとうね」
どいてください、と大して怖くもない顔で睨まれた隆永は「怒った顔も可愛いなぁ」と零す。
顔を真っ赤にした彼女は「もう!」と隆永の背中を押した。
彼女、松岡幸はこの和菓子屋「菓瑞」の店員であり、この店の店主の一人娘だ。
母親は幼くして死別し、父親一人だけで切り盛りするこの店を手伝いたいと、昨年大学を卒業してすぐに正式に店員として働きだしたらしい。
テキパキと働く幸の後ろ姿を見守る。