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綱くんは圧倒的な美形な顔立ちなので、女子が放っておくはずがなかった。
休み時間を迎えると、綱くんの席の周りは女の子が群がっていた。席が近い私は大変迷惑をしている。
「なんで引っ越してきたの?」
「どこの市からきたの?」
「彼女は?」
「好きなタイプは?」
ずっと質問攻めされ続けると、露骨に嫌な表情を顔に出して、重いため息をついた。
「あー、悪いけど、彼女作る気ないから。好きな人も作らない。こんな勝算がない俺にかまってるより、少しでも勝算ありそうな男探しな?」
冷たい視線を女子に向け、淡々と言い放つ。騒ぎ立てて話しかけていた女の子たちは気まずそうな顔をして固まっていた。気まずい空気が流れる中、綱くんは気にもしない様子で平然としていた。女の子たちは落胆したような表情を浮かべて、彼の前からは離れていく。
女子にちやほやされても、毅然とした態度で、追い払った。
普段からモテる人だと、騒がれてもこんな対応なのだろうか。
綱くんは、私とは別次元の人だ。
彼の世界には踏み込んではいけないような気がする。
私は鬼の子。これからも永遠に関わることはないだろう。
――この時は、そう思っていた。