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 綱くんに連れられて、体育館を離れた。誰もいない保健室のイスに座る。球技大会は校庭と体育館で行われている。みんな応援や試合に出ているからか、校内は静かだった。


「とりあえず、保険の先生呼んでくるから」
「綱くん! さっきはみんなの前でごめんね」
「……なんかしたっけ?」
「私のせいで冷やかされたり……」
「あー。あんなの戯れだろ」
「た、たわむれ?」
「ただの冗談だよ。ふざけてるだけ」
「そ、そうなんだ。冗談と本気の境界線が難しいな……」

 友達がいなかった私には、ハイレベルな難問だった。

「花純、見てたよ。がんばったな」
「ありがとう。綱くんのおかげだよ」
「文句の野次がうるさい中、本当頑張ったな」
「それも、綱くんの声が届いたおかげだよ」
「ははっ、花純が強いんだよ。俺はなにもしてない」


 口を開けて笑う綺麗な横顔に目を奪われた。球技大会に初めて出られた興奮が残っているのか、保健室に綱くんと二人きりのせいなのか、私の心臓はドキドキとずっとうるさかった。

 
「やっと見つけた。探したんだけど」

 怪訝な心持が滲む声の主は光希だ。保健室のドアを開けて不機嫌丸出しの表情で仁王立ちしている。

「花純、親父の病院行くぞ」
「病院……わざわざ行かなくても大丈夫だよ」
「馬鹿か。お前のためじゃねーよ。保険の先生だって、鬼の子の診察なんてしたくねーだろ」
「あ、そっか……」

 言葉の棘が心に刺さって痛い。
 光希の父、私にとって叔父さんに当たる。この町の総合病院で医師をしている。鬼の子の私は病院でも毛嫌いされるので、何か病気になると、診療科以外でも叔父さんに診てもらっていた。

「ったく。面倒かけんなよ」
「そんな面倒なら俺が連れて行こうか?」
「ああ?」

 今にも一触即発思しそうな不穏な空気が漂う。どうしていいか分からず、おどおどするしかできない。

「よそ者は黙ってろ。行くぞ。花純」

 荒げた声で言い残して先に保健室を後にした。その後を慌てて追いかける。

「綱くん、ごめん。大丈夫だから。病院行ってくるね」
「あー。お大事にな」
「……今日は本当にありがとう」
「もう何回も聞いたよ」

 呆れたように笑って、手のひらをひらひらさせて手を振っている。

 球技大会に参加できた。普通の人なら当たり前のことだけど、私にとっては大事件のような出来事だった。綱くんと出会えたことで、たくさんの初めてを経験している。いつも後ろ向きな気持ちだった私の心も、前向きになれている気がする。