拓海がわざわざ俺を夜中に呼び出すなんて滅多にない。だって、また明日になれば俺たちはイヤでも顔を合わすのだから。

それでも俺を呼び出したということは、拓海は今夜中に俺に伝えたいことがあるのだ。

──それはたぶん今、俺に言わないと決心が鈍るから。


「……ルービックキューブ」

「は? 拓海?」

拓海がベッドに転がっている掌サイズのルービックキューブを指先でつまんだ。俺はそのルービックキューブに見覚えがある。

俺が中学三年の時、一時期ハマっていたのだが、拓海は勉強はあれほどできるのにルービックキューブだけはへたくそで、必ずマスターするとか何とか言って俺の部屋から持って帰ったものだ。

「懐かし……ソレまだ持ってたのかよ」

「まあ……」

拓海が歯切れ悪くそういうと少しだけ頷いた。

俺は拓海の方に手を伸ばし、ルービックキューブを受け取る。ルービックキューブは六面全て色がそろい完成されている。

「ん? まさか、これできたから俺呼んだとかじゃないよな?」

「あ、それもあるかな」

「え? なんだよそれ」

「あはは、実はさ……僕、葵から借りたままのソレ……ときどき練習してたんだよね」

「え?」

驚いた俺を見ながら拓海が二重瞼を細めて笑う。

「はじめはさ……単純にできないことが悔しくて、完成させることばっかりに夢中になってたんだけど……ある時から出来なくても、未完成でもいいやって思って……」

「うん……」

俺は拓海の言葉の意図がわからず、短く相槌を打った。