「え?」

窓の側には小さくちぎった消しゴムの欠片が落ちている。俺はすぐに窓を開けた。

真向かい家の窓を見れば、拓海が窓越しに手を振っている。

「葵、暇?」

「おい、なんだよっ……用があるならLINEすればいいだろ?」

「LINEしたのに既読にならないからさ。部屋の電気ついてるから葵、寝れないんだろうなって思って。違う?」

「……まあ、そうだけど」

「じゃあ、ちょっとだけ付き合ってよ」

拓海がいたずらっ子のような顔をしながら手招きをすると数歩、部屋の奥へと下がった。

「まさか、久々に窓から来いってか?」

「そうそう。葵、落っこちんなよ」

(……ったく)

俺は窓の桟に足を掛けると、屋根をつたい、そのまま匠海の自室へと窓越しに飛び移った。

「葵、ナイスプレー!」

すぐに拓海が小声で茶化す。

「どうも。っていうか拓海の家にこうやって入んのいつぶりだよ」

「だね、母さんたちに見つからないためにはこのルートしかないでしょ。お小言面倒だし」

「誘ったのお前だからな。もし明日バレてたら、お小言は拓海担当な」

「ははは、了解」

俺はベッド下のカーペットに胡坐をかくと拓海の机の上に置いてある難しそうな参考書が目に留まった。それに気づいた拓海が開いていた参考書をパタンと閉じた。

「……葵、はい」

「お、さんきゅ」

俺は拓海からペットボトルのコーラを受け取るとグイッと飲んだ。よく冷えていて喉が焼けるような感覚と爽快感が入り混じる。拓海もコーラを口に含みながら黙って俺の隣に胡坐をかいた。

「……で? 拓海、なんの話?」