──その日の夜、夕食を食べて風呂に入った俺は、二階の自室でベッドにゴロンと横になっていた。

部屋の壁掛け時計は、二十三時を指しているのに眠れる気がしない。俺はそばに落ちている漫画を拾いあげてペラペラと捲るが気分が乗らず、すぐにベッド脇に放り投げた。

「はぁ……進路か……」

俺は木製本棚に飾ってある、今年の引退試合での集合写真に目をやった。そこには日に焼けた俺と拓海、そして仲間たちの達成感に満ち溢れた笑顔が映っている。

(野球……をしに大学か)

俺が初めて野球を知ったのは野球好きだった父の影響だ。物心ついたときにはボールがすぐそばにあって、拓海ともよくキャッチボールをして遊んだことを思い出す。そして中学に入ったとき、どのクラブに入るか悩んでいた拓海を誘って野球部に入りバッテリーを組んだのだ。

俺がどんな球を投げても拓海は必ず受けて止めてくれた。球だけじゃない。拓海はいつも俺自身の思いや迷いをさりげなく受け止めてくれたことに今更気づく。

(なんでいままで気づかなかったんだろ……)

俺は自分の不甲斐なさと鈍感さに深いため息をついた。

今、俺が通っている高校は公立高校で自宅から一番近いが偏差値も普通で特に特色のある高校ではない。それでも拓海が行くと言うので迷わず俺も決めた。

「……なんで拓海は……」

そこまで言って俺は言葉の続きを言うのをやめた。今日拓海は俺のことなら他人よりはずっとわかると言っていた。

拓海ははっきり言ってスポーツも勉強もよくできる。特に勉強は学年一で拓海が百点以外取ったところを俺は見たことがない。そんな拓海が偏差値がさほど高くない今の高校を選んだのは、俺の為だ。

あれは中学三年の夏の終わり、拓海から行きたい高校を聞かれて答えた俺は、拓海が俺と同じ高校に行くつもりだと聞き、あまりの嬉しさにまだ受験も合格もしてないうちから拓海とグータッチをしたことを思い出す。

「俺が……拓海と同じ高校に通いたいってずっと思ってたの……わかってたのかよ……」

拓海に聞いたところでどうせ家から近いからという返答が返って来るのだろう。

その時だった。

──コンッ

何かが窓に当たる音がして俺はカーテンを捲った。