「実は僕もさ……本当は葵と野球しに大学行こうか最後まで迷ってたんだ」

「拓海……」

「当たり前じゃん。ずっと葵と一緒に野球やって、いつだって葵が隣にいて……何かを変えるのが嫌だった。怖かったんだ……でも父さんが本当は僕に歯医者継いで欲しいって思ってたのも気づいてたし、将来なんて漠然としてて、まだわかんないけどさ……あとから、こうしてたらなって後悔したくなかったから」

拓海は俺の目をしっかりと見据えた。その真剣な表情に俺の心は騒がしくなる。

「葵にも後悔してほしくない」

その真っすぐな目に嘘やごまかしはきかない。俺は拓海の綺麗な目を見つめ返すと、掌を差し出した。

「約束する。後悔しないように……やりたいことやってみる」

俺の返事を聞いた拓海が歯を見せて笑うと、俺の差し出した掌を強く握り返した。

「うん。約束……。葵のこといつも信じてる」

手のひらから拓海の温もりがじんわり伝わって、枯渇していた心の中が優しく温かく満たされていく。

「離れても、僕ら一生会えないわけじゃないから。互いの変わらない強い想いがあればさ……いつでも会える。僕たちはこれからもずっと一緒だから」

子どもの時以来に繋いだ拓海の掌は、思っていたよりもずっと大きくてあったかくて一生忘れられそうもない温もりだった。この温もりを離したくなくなりそうだった俺は、さきに拓海の掌から掌を解こうと力を緩めた。

「ね。葵、あそぼ」

そういうと拓海はいたずらっ子のように目を細めて、俺の掌をさっきよりもキツく握り返した。そして真っすぐに海の方へと歩き出す。

「えっ……おい、なんだよ急に」

「はい、ミットそこ置いといてね」

「え? あぁ……ってなんだよ、そっち海じゃん」

「いいからいいから」